26年間のデータで導く、ブランド伴走型データコンサルティングサービス
当社グループは、中期事業方針に基づき、リテール事業(EC・店舗)の拡大を通じてユーザーとの接点やデータを蓄積し、それらをマーケティング支援事業(BtoBサービス)でマネタイズすることで、中期事業目標の達成を目指している。
そうした中で、2025年4月にローンチされた新サービス「データドリブンソリューション」は①データコンサルティングサービス、②AIを活用したクチコミ分析ツール「@cosme Copilot」、③リサーチサービスの総称で、マーケティング支援事業において今後重要となる新たな収益の柱である。今回は、その推進を担う「アイスタイルデータコンサルティング株式会社(以下:ISDC)」の立ち上げ背景や、独自のコンサルティングアプローチ、そして今後の展望について、キーパーソンたちに話を聞いた。
【データコンサルティングサービスとISDCの立ち上げについて】
菅原:アイスタイルでは、広告やデータに関するサービスをこれまでも展開してきましたが、あらためて「データコンサルティングサービス」のローンチとISDCを立ち上げた背景から教えてください。
天野:マーケティング支援事業において、広告及び販促ソリューションを中心にブランドへ価値提供を行ってきました。それは今後も変わらない事業の土台だと考えています。
しかし、ここ数年で生活者の価値観の多様化やSNSの発達により情報接点が複雑化し、年々明確なトレンドが生まれにくくなっており、こうした変化に対応すべく、データドリブンなマーケティングや商品開発を志向するブランドが増加してきました。
そのような変化を受けて、既存ソリューションである広告販促の川下の領域に加えて、今まで本格的に着手できていなかったデータを活用した戦略立案といった川上領域までを含めてブランドをサポートできる仕組みが必要だと考えました。
押野:今までもBO(ブランドオフィシャル)というサービスで、@cosmeのデータを活用しながら、ユーザーとの関係性を可視化し、ブランドの情報発信やマーケティングの支援を行ってきました。しかし、そこで見ることができる限られた情報だけでは、今の多様化するユーザーのニーズやブランドが求める施策に対応しきれなくなってきたと感じていました。
そこで、@cosmeに蓄積された多様でリアルなクチコミやユーザーデータを、より戦略的に活用できる体制を整え、新たなブランド支援の形を模索したことが、「データコンサルティングサービス」立ち上げのきっかけです。
天野:もともと、ユーザーの行動や購買データはIDで紐づけ、管理していましたが、EC・店舗のリテール事業の拡大によってデータ量が急増し、オンラインとオフラインで紐づけられる有効かつ独自のデータも増えてきました。そこで2年前からデータの整理と基盤整備に着手し、「戦略提案に耐えうる」統合データ基盤が完成しました。
また、今回は@cosmeに依存しすぎることなく、ブランドへの戦略支援を柔軟に行うため、あえて分社化という形でISDCを設立しました。
菅原:「戦略提案に耐えうる」統合データ基盤で、具体的には何が可能になったのでしょうか?
押野:この統合データ基盤が完成したことで、傾向を捉えた分析がより精緻に行えるようになりました。
たとえば、1人のユーザーが10商品を見て、そのうちの1つだけを購入したとします。そうすると、「なぜその1つを選んだのか」「なぜ他の9つを選ばなかったのか」といった理由が、商品のお気に入り登録、ページ閲覧などの非購買アクションから購入までといったすべての行動履歴やクチコミからわかります。
こうした行動データが膨大にあることで、意思決定の前後にあるカスタマージャーニーが、より正確に把握できるようになりました。
天野:以前から「@cosmeで話題になると売れる」といった結果は、ブランドにも実感いただいていましたが、それと相関する具体的な根拠や因果関係までは示せていませんでした。
しかし、統合データ基盤によって活用できるデータが増え、今では「なぜ売れたのか」を言語化し、手法論だけではなくブランドごとに戦略ベースの提案が可能になった点が、大きな変化です。
【ISDCが提供する価値】
菅原:ISDCのコンサルティングの特徴について教えてください。
天野:最大の特徴は、「ユーザー行動に基づいた仮説設計と検証」を一貫して支援できる点です。
まず、クチコミや購買前後の行動データをもとに、「そもそも何が本質的な課題なのか?」をファクトデータに基づきブランドと一緒に掘り下げていきます。ここで重要なのは、最初に「なぜこのテーマに取り組むのか?」「誰に向けた施策なのか?」といった目的を徹底的に明確化すること。これにより、議論や施策の軸がブレず、効果的な仮説設計が可能になります。
その仮説から戦略を立て、@cosmeのプラットフォーム内で検証・分析していくのが我々のスタイルです。ただ提案して終わりではなく、実際にクチコミサイトの@cosmeやECの@cosme SHOPPING、店舗の@cosme STOREを活用して施策として実施し、その反応を分析するところまで伴走する。
PDCAサイクルを自社で回せる体制が整っていることもISDCの強みです。
菅原:そこまで一気通貫した支援は、メディア・EC・店舗を持つ我々だからこそできることですね。
また、ISDCのもう1つの強みとして、膨大なデータと化粧品業界の構造や市場の特性を理解しているからこそ、それを正確に分析できるノウハウがあると思います。一方で、膨大にデータがあるからこそ仮説やできることが多すぎて、ブランドごとに最適な施策を絞っていくのが難しいとも思うのですが、サービス開始当初はどのようなところに苦労しましたか?
押野:おっしゃるとおり、ISDCは自社にあるデータを活用し、業界に特化しているからこそ、データの理解が深く、ブランドごとの課題に沿った仮説を立てることができます。しかし、この仮説の立て方が難しく、広すぎると論点がぼやけ、逆に狭すぎると検証に意味がなくなってしまうんです。論点整理力とブレないプロジェクト推進力がISDCには求められていると思っていますが、実際、サービス開始当初はこの2点に苦労しました。
でも、様々な案件を経験する中で、多様なケースに対応できるフレームワークが構築できてきたため、今では業務を効率的に進められるようになってきました。
天野:論点整理の際、最近は「ブランドの相対的な立ち位置を明らかにする」などの課題の根本的な原因を再度洗い出すことも意識しています。
たとえば、ブランド側は「うちの商品は高価格帯だから、競合はこのラグジュアリーブランド」と考えていても、実際にユーザーは全然違うマスブランドの商品と比較しています。これは、ブランドや価格帯の垣根を越えた業界横断型のプラットフォームを有し、業界に対してフラットな目線を持つ我々だからこそ分かることです。それを根拠に戦略を立てられることが、ISDCのコンサルティングの価値だと思います。
菅原:一般的なプロモーション案件では、クライアントの前提をそのまま受け入れて進めてしまうことが多い。でもISDCは、実態のデータに基づいて「本当のターゲットユーザーや競合相手は誰なのか?」まで踏み込んで戦略立案できる点も強みなのですね。
天野:実際のプロジェクトは、「この商品の売れ方が想定と違う」「ユーザー行動を見てみたい」といった漠然としたご相談から始まることが多いです。
だからこそ、最初に正しい問いを立て、クチコミや購買データを読み解きながら仮説を構築し、クライアントと議論を重ねながら、データ分析による更なるインサイトを導き出していきます。その上で、実行と検証を通じ、ブランドの考え方そのものがアップデートされていくことも少なくありません。
押野:実際のPoC※案件でも、ターゲット設定がそもそもズレていたり、競合との違いが曖昧だったりと、根本的な課題がデータから浮かび上がってきました。
ISDCでは、表面的な課題への対処にとどまらず、ブランドと一緒に戦略をつくるパートナーとして、より本質的な価値を提供できると考えています。最近では、同じメーカー内の別ブランドからもご相談をいただくケースが増えています。
※ PoC (Proof of Concept):サービスのアイデアや技術が実現可能か検証するプロセス
天野:とはいえ、そもそも化粧品業界は、プロダクト開発やコミュニケーション施策などの川下に対するコンサルティング支援は受け入れられやすい一方で、ブランド戦略など川上領域に外部コンサルティングが介入することには、依然として高いハードルがあることも事実です。
だからこそ、ISDCとしては、ユーザーデータを起点とした独自の支援を通じて成功事例を積み重ね、そのハードルを越えていきたいと考えています。
菅原:業界の構造的なハードルを越えるには、信頼と実績の積み重ねが重要で、容易なことではありませんが、ISDCがその壁を乗り越える存在になっていければいいですね。
その他、ISDCの今後に向けた課題があれば教えてください。
天野:最大の課題は「人材」です。特に、仮説を立てて構造化し、クライアントに提案できるシニアクラスのマネジメント人材はまだまだ少ないのが実情です。
今は、ISDCを共同設立したCXコンサルティングファームである株式会社NODEとナレッジを共有し、プロジェクト設計力の底上げに取り組んでいますが、引き続き外部からの採用と社内育成の両輪で人材基盤を強化していく必要があります。ただ、コンサルティング会社として分社化したことで、これまで接点がなかった候補者との出会いが、着実に増えているのも事実です。
押野:即戦力であるシニアクラスの採用を進める一方で、将来を見据えてジュニアクラスの育成にも注力しています。仮説思考を養うために、社内では模擬プロジェクトを活用したトレーニングやプロジェクト推進プロセスのフレームワーク化を実施しており、段階的に実務対応力を育てています。
ISDCでは実務経験を通じて、仮説構築から検証・分析・提案まで一連の力を着実に身につけることができますし、化粧品業界への理解も深まっていきます。実際にメンバーからは、「プロジェクトごとに自分の中の引き出しが増えていく実感がある」といった声もあり、成長意欲が高まる環境になっていると思います。
菅原:育成体制を整備しつつ、シニア・ジュニア両クラスのコンサルタントの採用を強化しているとのことですが、ISDCとしてはどのような方に入社していただきたいと考えていますか?
押野:単にデータが扱える、ロジックが強いといったスキルだけではなく、問いを立てられる力や仮説を構造化できる思考力も必要です。そして何より一番大切なのは、ブランドの課題を"ジブンゴト化"して捉えられるかどうかです。我々のコンサルティングは、課題定義の段階から深く入り込むので、この姿勢が欠かせません。
天野:今後、組織が拡大していく中で、カルチャーの共有もより重要になりますね。我々は「事実に向き合い、意味づけを考え、伝えきる」という姿勢を何より大切にしています。メンバー全員がその姿勢を持ち続けることが、ISDCの価値そのものになると考えています。
【データコンサルティングサービスが切り開くこれから】
菅原:最後に、これからデータコンサルティングサービスで実現したいことや、ISDCが目指すものについて教えてください。
天野:まずは、ISDCを100人規模の組織にすることです。ただ単に人を増やすだけではなく、仕組みやフレームワークの整備、AIの活用で資料作成を効率化することで、メンバーの一人ひとりが"考える仕事"に集中できるような体制を整えていきたいです。
押野:今は@cosmeのデータを起点にしていますが、それだけでは市場全体を俯瞰するのに限界があります。ですので、今後は他社データとの連携も視野に入れて、より広い視点でブランド戦略を支援できるようにしていきたいです。外部データと組み合わせることで、ブランドへの提供価値はさらに高められるはずです。
そして、ISDCの強みである「ユーザーデータを起点に戦略を組み立てる」ノウハウは、化粧品業界だけでなく、日用品やライフスタイル関連、他業界にも十分に展開できると考えています。実際に依頼もいただいており、今後は領域の拡大に向けた取り組みをさらに強化していく予定です。
天野:コンサルティングという枠に収まらず、ブランドとともに戦略をつくり、現場で価値を証明していく"新しいコンサルティングの形"をISDCで作り上げていきます。「生活者中心の市場の創造」に向き合い続け、事業を展開してきた我々だからこそ提供できる価値が、今後さらに求められると感じています。
最終的には「アイスタイルに任せれば、ブランドの戦略設計から施策の実行・検証まで一気通貫で支援してもらえる」という安心感を持ってもらえる存在になることを目指していきます。